『さようならオレンジ』岩城けい著を読んだ。

f:id:picnicacycle:20171221154322j:plain

 

『さようならオレンジ』岩城けい著を読んだ。

 

読んでいる最中、そして読後、こんなに力強く気持ちを掴まれた本を読んだのは久しぶり。

 

今の一般的な日本作家にはないセンテンスの長さと、感情よりも情景や風景を細かく描写することで立ち上がってくるサリマとハリネズミ(サユリ)の深い心情の変化は、外文と日文の良いところを併せ持った、岩城けいさんだけにしか書けない深く心に残る文章。私も大好きな小野正嗣さんが解説を書いてるのも嬉しい。

 

そして何より「生きるということ」を異国で、母国語すら通じない世界で生きることを通じて、しっかりと真っ直ぐに投げかけてくれる一冊。読後、これほど読者の日常を勇気付けてくれる本は最近、見当たらない。二人がたどり着いた力強い言葉「根付くということ」「人のせいにはしないということ」「会うべき人に会いすべきことをするためにここへ来た」はどの人の心をもしっかりと暖めてくれるはず。

 

 そこで、ちょっと私自身の話を。出身は新潟、大学は北海道、その後は上京し、10年前から千葉在住。大学時代は若者特有のモラトリアムからか、ここでは無いどこかを求めてバックパックで北欧やフランス、イギリスを転々と旅行。その後、写真家を志して上京。しかし、そんな土地に根付かない生活の私が撮る写真はどこか空々しく、「普通のお父さんが取った自分の家族写真」の「やさしさ」や「真実さ」がまぶしく、結局写真での生活をあきらめてしまった。で、現在、縁もゆかりも無い千葉県に家族と共に生活をしている。そして、二年前から、地元のとあるスポーツのクラブに思い切って参加。今では街を歩いていても、70過ぎのおばあさんや単身赴任してきている30代の男性、定年退職したご夫婦、学生など、多くの人に声を掛けられて過ごしている毎日。それがどんなに嬉しく、心が落ち着くことか。10年経って、やっと生きる場所に根付いたなぁといった感覚を持つことができたこの頃。サリマやハリネズミとは比べ物にはならないくらい小さなことではあるが、自らの生きる場所を自らの小さな一歩から作るという大切さを、この本を読んだあとだからこそ改めて感じることができた。

 

とにかく、良い本というのは日常をガラリと変えてくれるもの。そんな力強い一冊に出会えたこと、そして北陸でこの本を薦めてくれた書店員さんとの不思議な縁に感謝したい。